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“乗れなかった自転車”





 今日は保育園の仕事も早めに終わり、ゆっくりと商店街を歩いている。
 「うわー、あたしも年を取ったわねぇ」
 あたしの前を歩いている二人組の高校生をふと見てちょっと、ブルーになった。
 二人が着ている制服に懐かしさをかんじたのだ、それはあたしが卒業した高校の制服だった。
 愛着もあったけど今はそれより懐かしい思いが大きくて、なんとなく年を取った気分になってしまった。
 その二人は仲睦まじく歩いている、カップルなのだろうと思った。
 あたしにもこんなときがあったのだ、と思うと溜息が出そうになる。こうしていたら良かった、そう思っても失ってしまった時間はもう元には戻らないと言う事を良くわかっているから。
 「あいつにもこれくらいの甲斐性があったらよかったのに」
 あたしの隣にはきてくれなかった、昔好きだったあいつを頭の中に思い出す。
 もう何回この作業を行ったのか、ちょっと目を閉じるだけであいつの姿、目の色、たくさんのことを簡単に思い出すことができる。
 その横を高校生のカップルが乗った自転車が通り過ぎる。
 あの後ろに座れるのは、彼女だけなのかなぁ。なんて思いつつ足を家に向けて歩き続けている。







 今、あいつには自転車の後ろに乗せて走れる人がいる。
 今、あたしには自転車をこいでくれる人はいない。
 あの時、もしあたしがあいつにこの抱いていた思いをぶつけていたら一体今どうなっていたのだろう?
 あのカップルのように前があいつで後ろがあたし、二人仲良く自転車をこげていたのだろうか。
 こんな事を考えると、毎回思考ループに陥ってしまう自分が嫌だった。
 「あたしも馬鹿ねぇ……」
 ずっとあの朴念仏の事を思っている自分がなんとなく嫌になる。


 今のあいつには奥さんがいるのだ、自分がいまさら何かできるはずも無い。その権利は自転車に乗った人にしか持たない。
 「あたしにも新しく見つけられるのかなぁ……」
 そんなことをしていると、あいつとの待ち合わせ場所についた。
 一体何なのだろうかと思うほど、唐突に春原陽平からメールが入ったのが昨日の夜だった。


 「こっちに転職したから、会わないか?」


 あたしにメールを送ってきたのだった。特に用事も無かったしいいか、と気楽に考えて、かまわないというメールを返信した。
 商店街の出口から駅のロータリーを見てみる。思いもかけず違う世界への切符が手に入りそうな思いがして、あたしは思わず陽平のところへ駆け出した。
 あたしが近くに来たことに気がついた陽平があたしの名前を呼ぶ。
 「杏! 久しぶりだね」
 「そっちも、前あったときと変わってないわね」
 変わっていないといったけれど、前より顔立ちがりりしくなったりしていて、すこしどきりとした。
 彼はにこりと、高校のときと変わらない笑顔であたしを出迎えてくれた。
 あたしはそのときに目の前に止まっていた、新しい自転車のペダルに足をかけた気がしたのだった。