幻想の世界で







 光も差さないような、薄暗い森の中を金髪の青年が歩いていく。
 特徴と言えば、髪が一房だけ立ちまるでアンテナの様になっているのが特徴だろう。
 とにかく、彼は一人だった。

 常に一人で行動し、仲間も持たずたった一人で。
 自分の行く手を阻むものは、一人で屠ってきた。
 今回も、もちろんそのつもりだった。
 街の依頼所で、自分のランクにあった依頼を受け、その場に赴いた。

 依頼自体は、簡単なものだった。
 ある場所にある、あるものを取って来い。ただそれだけ。
 だがそれを守るものが、彼にとっては予想外だった。
 このレベルでは出てくるはずの無い魔物だったのだから。

 往々にして彼らには、このようなことがある。
 この際には、冒険者には二つの選択肢がある。

 一つは、自分の獲物を抜き交戦する事。

 もう一つは、敵わないと思い逃げる事。

 彼は何も言わずに、腰にぶら下げていた二本の剣を抜き、構えた。
 青年は交戦を選んだ。
 魔物も今、剣を抜いた青年を侵入者と認め、殺意を持って彼に向かってきた。
 命をコインとした、限界のやり取りが今始まる。






 彼が明確な殺意を持って剣を振るう。
 それは寸分たがわず、敵の急所に向かって剣線を描く。
 しかしそれをただ身体の軸を少しずらすだけで、敵は避ける。

 「シネ…」
 魔物から発せられた片言の言葉。
 それと同時に、鋭く尖った爪を繰り出す。
 まともに喰らえば命はないだろう、それくらいの威力が簡単に想像できた。

 しかしそれを彼は、もう一本の剣で防ぐ。
 間髪いれず彼は、先ほど空を切った剣でまた斬りかかる。
 それと同時に、敵も開いているほうの腕で彼を薙いだ。

 「ぐぅっ……!」
 剣からは肉が斬れる感触が伝わってきたと同時に、凄まじい音を伴い、彼は吹き飛ばされた。
 そして木に叩きつけられる。
 打撃と同時に咄嗟に体を後ろに引いたが完全には吸収できず、また爪で肩を引き裂かれていた。
 魔物は横腹を斬られ、青年は爪で肩を抉られる。
 ダメージでは、彼のほうが重い様だ。
 抉られてから数秒で、彼の服は徐々に赤く染まってゆく。
 それとは対照的に、魔物は未だダメージを受けていないようだった。

 「マダダ……マダチガタリナイ」
 魔物は彼の回復なんて待つつもりもない。
 敵は、これをチャンスとして青年を自分の餌にするために攻撃を開始する。
 左右の鋭い爪から繰り出される、縦横無尽の攻撃。
 先ほどと同じスピード、同じ威力で今度は両方の腕から繰り出される。
 それを彼は、二本の剣で巧く防いでいく。
 さすがに人の身では辛いのだろう、受け止めるたびに彼の表情は苦いものになっていった。
 攻撃を受け止めるたび、剣と爪がこすれあい、甲高い音を立てる。


 ギィン。


 今までで、最も大きな音を立てて、鳴る。
 敵の最も殺意を込めた攻撃を見抜き、青年が身体を引く。
 敵が、よもや避けられると思ってもいなかった攻撃をかわされ、体勢を崩す。
 そこを見逃す、義理も何もなかった。
 「つっ……はぁっ!」
 今度は、彼が圧倒する番だった。
 剣は薄く光り、鋼とは違う色となる。

 斬る。

 斬る。

 斬る。

 余裕を与えないように、息をつく暇さえ与えないような斬撃が、複雑なステップとともに叩き込まれてゆく。
 一太刀浴びせるごとに返り血が跳ね、彼に付着する。
 その血を笑顔で浴びながら、彼は剣舞を続ける。


 急に、がきっ、と何かに止められる音がした。
 押しても引けども剣は抜けない。
 「チョウシニノルナヨ……ニンゲンブゼイガッ!」
 刹那、凄まじい力が彼に掛かる。
 その反動で剣は抜ける。
 ずるっ、と音を立て剣は滑った。
 そして彼は、受身を取って着地した。
 「ワタシガ、ニンゲンフゼイニマケルワケガナイダロウ」
 そう言って、敵は雄雄しく立ち上がる。
 その身体からは、無数の裂傷が確認でき腕からは大量の血が流れていた。
 恐らく彼の剣を骨で受け止めたのだろう。

 「サァ、ニンゲンヨ」
 ニヤリという表現がぴったりの笑みを浮かべ魔物は語る。
 「ワレノカラダヲキズツケタムクイヲウケヨ……」
 いい終わり、歩き出そうとする。
 「くっくっく……はぁ――っはははははははは!」
 魔物は、彼の壊れたような笑い方に不信感を抱いた。
 「ナニガオカシイ、ニンゲンヨ」
 「やっぱり、この程度の魔物か……言葉が喋れるだけでたいしたことがない奴だ」
 完全に侮蔑の言葉を言われた魔物は怒り、足を踏み出そうとするが――
 「ナゼダ! ナゼウゴカン!」
 そう魔物が叫んだときに、不意に敵の足元が光りだす。
 その光から出てきた、無数の赤い何かが敵の身体を縛り上げる。
 それは、二重三重にも縛り行動を不可能にした。
 完全に敵を縛り終えた後、足元には赤く染まった魔方陣が描かれていた。
 「じゃあな……哀れな馬鹿よ」
 彼は、身動きが取れない敵に向かって魔法の詠唱を始める。

 その間も魔物は身をよじり、最大限の力を込めて枷を外そうとする。
 しかし、二重三重にも巻きついた枷がそんなに簡単には外れるわけも無く、敵は彼の詠唱が終わるまでに枷を外すことができなかった。

 その間に詠唱を続けていた青年が――
 「爆ぜろ! エクスティンクション!」
 唱え終わる。
 最後の、魔法の発動のキーを唱え終えた後、凄まじい爆発が起こる。
 それは魔物をいともたやすく飲み込んだ。
 凄まじいエネルギーの奔流が肉を裂き、骨を砕き、身体をばらばらにする。
 魔物には、断末魔を上げることを考えることも無くこの世から消えた。

 爆発の余韻が消えた後、そこには元の形を判断できないほどに解体された何かがそこにあった。
 彼は何も言わずに血のついた剣を振る。
 ぱたぱたという音と共に、血は赤黒くなって地面に落ちる。
 そして横目で、元魔物を見る。
 その瞳は、先ほどの笑顔が嘘のようになんの感情も抱いてはいなかった。
 そうして青年は、依頼されていたものをとり、その場を後にする。
 後には、血と肉のみが残された……

















 「と言う小説を書いてみたんだが、どうだ?」
 祐一は笑顔と共に、 「幻想の世界で」 と印刷された用紙を見ている北川に話しかけた。

 「う〜ん……もうちょい説明が欲しいね。これじゃあ読者が置いてきぼりだ」
 「やっぱりそうか〜、やっぱり彼とかじゃなくて名前を出すべきだったか」
 椅子に座ったまま祐一は、手足を伸ばす。

   北川が用紙を机に置きながら
 「つ〜かさこの主人公、何で特徴が俺と同じなんだ」
 「ああ、ぱっと思いついたのがお前だったんだよ」
 何事も無いようにさらっと言う。
 実際は、なんとなくで使われた北川が可哀そうでもない。
 「まあいいじゃないかちょっと二枚目だぜ、小説の中では」
 「別にいいけどさ……どうして急に小説なんて書き始めたんだ相沢?」
 待ってましたとばかりに、祐一が話し出す。
 「良く聞いてくれた、昨日インターネットをしていたらSSって物を見つけてな、興味がわいて書き始めたんだ」
 「ふ〜ん、そんなものがあるのか。まぁ、頑張れよ」
 「おう、任せておけ」
 北川は手を振りながら答えた。

 「そろそろ学食行こうぜ」
 「ああ、そうだな」
 二人は席を立ち、学食に向かって歩き始めた。




 そしてこの日から、相沢祐一のSSへの挑戦が始まった。



 後書き

 語る言葉もありません……これは一体何SSなのでしょうか(汗