Revival Times #1






「知っているような知らないような天井だ」
使い古されたネタを少し新しくしながら祐一は身体を起こす。

「ん、そういえば俺はこっちに帰ってきたんだな」

「そうだな、昨日はなかなか面白かったぞ。祐一」
隣から聞こえてくる聞きなれた声。
「……あー、お前に常識と言う言葉は効かなさそうだが、あえて聞こうか。如何して此処にいる?」
寝起きの眠気はとっくに隣の男に消され、すごすごとベットから起き上がる祐一。

その隣、ベットの横に仁王立ちしている浩平は
「ヒマだったからだ」
しれっと言ってくれた。

「となると、お前はヒマだからという理由で人の家にピッキングして入るのか……?」
呆れた表情で祐一は呟く。


「まあまあ、いいじゃないか。久しぶりに会ったんだからな」
ポケットから出したピッキングの道具を指先で弄びながら浩平は着替えようとしている祐一に言う。

「ところで祐一。今日はどうするんだ?」
「ああ、学校は明日からだからな、今日はちょっとあそこに行ってくるさ」
その言葉だけで全てを理解する浩平。
伊達に少年の親友を名乗ってはいない、と言う事だろう。



「……そうか」
祐一にはそれだけで十分だった。
「ああ、だからお前は早く学校に行け。遅刻するぞ」
既に時計は八時二十分を示していた。浩平たちが通う学校は八時三十分には門が閉まる。
要するに既に遅刻レッドライン真っ盛りと言う事である。
「ああ、彼女によろしくな。じゃあ明日」
そう言って部屋から出て行った。

「さて、行くか……」
パジャマから私服に着替え、彼は再会の地に足を向ける。
その道のりで、その少女が好きだった花を買って。















祐一の家から少し歩いたとこに丘がある。
それは地元の人にもあまり知られていない所。いわゆる穴場と言う奴である
其処には昔から桜の樹がある。春になるととても綺麗な花を咲かせるが今は既に散ってしまい、葉桜となっていることであろう。
祐一はその桜の樹の下に来ていた。
その樹の下には小さな墓が一個ぽつんと佇んであった。


「よう、桜。こっちに帰ってきたぞ」
手を上げながらぽつりと呟く。

墓には「神凪 桜」と名前が刻まれていた。
その墓に祐一は話しかける。恋人に話すように嬉しそうに――


最初は他愛の無い話。

一人で話して、一人で笑って、一人で納得して――

周りから祐一を見ると馬鹿に見えるか、気が狂っているのかと思うだろう。

無論祐一はそんなことは気にはしない。これは彼にとって普通となってしまった事だから。

それが、彼が望まなかった形で習慣となってしまった事。


「……桜には起きなかった奇跡が向こうでは連続で起きたよ」
北の街で起きた奇跡の話になり、祐一は声のトーンを落とす。

「……ありえないよな。こっちで奇跡を願ったときには起きず、あっちで願って起きるなんてな」
話を進めるたび表情は次第に曇ってくる。表情は下を向いているため分からない。
しかし、その声は徐々に湿り気を帯びてくる。

「最初は、そう偶然だと、そう思っていた……だが、あそこまで連続で起きるともう奇跡を受け入れるしかない。この奇跡は必然だったと」
そこまで言って祐一は自分の手に力を込める。
力の込めすぎで手から血が滴っても彼は言葉を続ける。

「もし……時間を戻せると言うなら俺はあいつらに起きた奇跡を桜、お前に起きて欲しい」

顔を上げたその目には涙。
悲しいのは、向こうで起きた奇跡ではない。
彼女達には起きて、自分の最愛の少女には起きなかった事が、祐一には辛い。

「俺は奇跡を起こした奴が憎い……なぜあいつらには起きて桜――お前には起きなかったのか、と」
握り締めたままの手を地面に叩きつける。

「いまさら、言っても仕方の無いことだとは分かっている。だけど、俺は納得できない」
叩きつけ血が滲む手を開く。

「今度からずっと、こっちにいるから。また逢いに来るよ、桜」

立ち上がり、名残惜しそうに墓を見る。
そうして精一杯の笑顔を作りその場を離れようとする祐一。



「桜……俺はお前との約束を守れそうにないな……三年経っても俺はお前のことが」
頬を伝う涙を拭おうともせず、彼は言葉を続ける。

「忘れられない」
後ろを振り向かずにそのまま立ち去る。













(祐一……お前は)

同時刻、何時もなら寝ている授業中、浩平は考え事をするため珍しく起きていた。
周りは浩平が起きている事に動揺していたが、今の浩平にはそんなことを気にしている場合では無かった。

今朝、祐一から聞いたこと彼にはしっかりと伝わっていた。

(まだ――あの事から立ち直れてはいなかったのか?)

親友として、彼女を除き尤も彼に近い存在である彼は、本気で彼は祐一を心配していた。

何の気になしにふと、外に視線をずらす。

空は雲一つ無い快晴。

ぽっかりと穴が開いたようなそんな天気。

それは、一体誰の心を表していたのか……



墓の前に供えられた花が、静かに風に揺れていた。



感想はここかまたは掲示板へ…

感想をいただけると非常に嬉しいです。