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BK幕間 『フジの花サキ、そのハルカ遠くへ』

第2話




「それよりも……」


祐李が仕切りなおすように戒のほうを向いて話しかけた。


「問題なのはあやめちゃんのほうでしょ?」


「……ああ、そうだな」


戒が少し間をおいてから答えた。


「そっちの方こそどうするのよ? 時間的にはこっちのほうが余裕ないんじゃない?」


「全くだ。……それに今のあやめには自信もないしな」


「…………自信か。まぁ、あやめちゃんの場合は才能あるから大丈夫だとは思うけど」


そう言って祐李は微笑んだ。


「そろそろ気付いてほしいんだがな……自分の能力がただ単に『物を爆破』するだけじゃないってことに」






















戒が言ったように今のあやめには自信がない。


団体戦のメンバーにこそ選ばれたもののその選手と比べると何より自分で自分が劣っていると思わざるを得なかった。


相沢祐一の選考漏れに不満を洩らすよりも自分がメンバーに入っていることに不満を言いたくなっていた。


「団体戦のメンバーから言って……誰にも勝てる気がしないのよねぇ」


天王寺家の広い敷地、その中であやめはため息をこぼす。


「そうでもないと思いますよ?」


「うぃ!?」


忘れていたが、あやめに近くに佐祐理がいた。


独り言が多くなっていることに気付いたあやめはそれこそ末期症状だと思っていた。


「慰めはいいですよ。まったくあたしの能力は不便なんですよ……」


「ふぇ? 不便ですかね……佐祐理はいい能力だと思うんですけど」


「それ本気で言ってるんですか?」


「本気ですよ〜」


(本気だ……このほえほえした言い方は本気だ)


数日間、佐祐理と暮らしてみて分かったこと。


そんなことぐらいしか成果がなかったかと思うとあやめは心底悲しくなった。


「あたしに言わせれば佐祐理先輩の能力の方がよっぽど便利だと思いますよ」


まったくだ、と口に出してみてあやめはそう思った。


彼女の能力、カラーに合わせた様々な特性を持った杖を具現する能力。


思ってみればこれほど便利な能力って他にないんじゃないかと思うほど便利。


そう思うと何だか腹が立ってきたあやめがいた。


「あーあ、あたしも佐祐理先輩みたいな能力だったら良かったのに……」


終いには愚痴をこぼす始末。


やはり末期症状だ、とあやめは思った。


「バーカ、あやめが佐祐理さんみたいな能力持っても使いこなせるわけがないだろ?」


「え?」


唐突に声が増えた。


声がした方にあやめと佐祐理が振り返るとそこには祐一の姿があった。


「あ、祐一さんこんにちわ〜」


と、のんびり挨拶をしたのは当然佐祐理。


一方のあやめは口をパクパクさせ、鯉のようだった。


「あんた、え? なんで……?」


「いや、そろそろ外の空気が吸いたくなってな」


と、あっけらかんな調子で祐一は答える。


「祐一さん、腕の調子はどうですか?」


そんな中、佐祐理が訊ねた。


「んー絶好調かな、少し動かすだけで大激痛が走るわ」


「ば、馬鹿っ、それのどこが絶好調なのよっ……」


「? そんなのジョークに決まってるだろ? なにテンパってるんだお前……」


そんなことを言われてもあやめには何が何だか分からない。


数日前、って言うか昨日までは死んだような眼をしていた祐一が目の前にいて普通に喋っている。


自分はそんな祐一に何言ってたなんか思い出すのに数秒とかかる。


「……ああ、その……ええと、だ、だから……!」


あたふたといい感じで空回るあやめ。


それを目が点にしながら見つめる祐一と佐祐理。


「どこの体当たり芸人だお前……」


「どっちかと言うと新手のロボットダンスみたいに見えますけど……」


「その……だから、ごめんっ!」


それがあやめからやっと搾り出された言葉。


「あたし、祐一に酷いこと言ったよねよく覚えてないけど。一番辛いのは祐一のはずなのにそんなことも分からずに酷いこといってごめん」


一度、声に出すとあやめは繰り返しもう一度ごめんと言い、頭を下げた。


「いーや、許さねぇ」


「え?」


「お前のせいで俺は立ち直っちまったんだからなっ……!」


そう言うと顔を上げたあやめに笑って見せた。


「ははっ……、なんだあたしのおかげか」


それを見てあやめもまた笑った。


「馬鹿っ、おかげじゃなくて、せいだって言ってるだろ」


「むっ、馬鹿だけどそう馬鹿馬鹿言われるのはイジメじゃない?」


「うるせー、それぐらいで凹むタマじゃねぇだろ……!」


「あらデリケートで名の通っているあたしは傷つきやすいのよ。よってあたしは心に200のダメージを負ったわ」


「何がよってだかさっぱり意味分かんねぇよ!」


「もしかして祐一って馬鹿?」


「誰が馬鹿だ! 馬鹿はお前だっ……!」


「あら、馬鹿って言った方が馬鹿なのよ。だから祐一が馬鹿ね、決定〜」


「どこの屁理屈だよ、それ……! テメェいい度胸だ喧嘩売ってるのか?」


「はんっ、怪我人は大人しくベッドで寝てろってんだ」


「なんだとー」


「なによー」


そんな光景を佐祐理は微笑ましく眺めていた。



























「さて、話が横道にそれたが……」


「ん?」


祐一が仕切りなおし、そしてあやめの方をむいた。


「お前自分の能力が本当に不便だと思ってるのか?」


「…………」


あやめは少し沈黙し、考えるように目を瞑る。


「さっきはああ言ったけど、本当のところはよく分からないわ……」


それがあやめの本音。


「ふむ……佐祐理さんはどう思う?」


ここで祐一は隣にいた佐祐理に尋ねた。


「えっと、あんまり詳しいことは分からないんですけど……あやめさんは戦いやすい相手だと思われることが多いんじゃないでしょうか?」


「?」


佐祐理の言葉に首をかしげるあやめ。


「まぁ、それは俺も同意見だって言うかそれが結論だろうな」


「それ、どういう意味?」


「そうだな、あやめが強い弱い云々を抜きにしてそれがあやめの最大の弱点ってことだろうな」


「弱点って頭のこと?」


少し、そのことを自分でいうのは恥ずかしいのか、あやめは語尾が小さくなった。


「頭? いや、俺が言いたいのはそういうのじゃなくてだな……」


そして祐一はそれを否定した。


「じゃあ、それ以外ってことよね……。何よ、あたしの弱点って?」


「お前、それを言っちゃ意味無いだろ。そこは自分で考えないと」


「むっ…………」


そう言われ、あやめは腕を組み考える。


しかし、急にそんなことを言われても直ぐに自らの弱点など思い当たらない。


そもそもそれが分かっているのならば自分がここまで苦労してはいないだろう。


「まぁ、急ぐことは無いさ。今までの戦いを振り返れば自ずと答えは出るはずだから」


祐一の言葉にあやめは「そうね」と返事を返した。


そして今度はあやめが仕切りなおし、祐一に尋ねた。


「ねぇ、ちょっと気になったんだけど……アンタその腕どうする気なの?」


「ん、ああ……コイツのことか?」


そう言って祐一は視線を左手に注ぐ。


腕が砕けて既に1週間以上が過ぎている。


元々が治るかどうか微妙な怪我な上に治療もなしに放置していたのはいただけない。


「まぁ、佐祐理さんとの戦いでもう一回砕けたからな……幸いって言えば幸いか」


「あははー、あの左腕でのカウンターすっごく痛かったですよー」


「ははは……、打った俺も痛かったし」


「……笑い事じゃないわよ、まったく」


しかしそれでも祐一が元気になったことを素直に嬉しく感じるあやめがいた。


「そうだな、まぁ、最悪治らないなら左腕切り落とすまでだろ」


「それで新しくドリルが付いた機械の腕でもはめ込むつもり?」


今度はそれが冗談だと言うことに気付く余裕があやめにあった。


「いいなドリルな腕。ドリドリドリドリ…………」


「それ鳴き声? て言うかそれ普段の生活のときは凄く邪魔だと思うけど」


「いっそのことあれですよ、左手をガチャガチャすると外れて、そこからナイフみたいなのが出たりスーパーど○ん波が出せるようにするとか」


「「桃白白かよ!」」


そんな声が天王寺家に木霊した。





















「とまぁ、再び横道にそれてしまったが……」


祐一が再び仕切りなおした。


「どうやら母さんに何かアテがあるらしいから、それ頼りだな」


「なんだ、結局そういうことになるわけね」


少し日が傾いてきたのか、外には影の部分が多くなってきていた。


そして季節はもう冬近く、日の世界は短い。


「それにしても相変わらずと言うか……祐李さん手回し良すぎると思うんだけど?」


「まぁ、母さんだしな。あの人何でもありだから」


「それで納得するのも腑に落ちないけど、まぁ現にそう言う人だってあたしも知ってるからなぁ……」


そう言いつつも、どこか納得できないと言った表情をあやめは見せた。


そしてしばらく三人で雑談をし始める。


時間が時間なだけに段々と道場生の姿が少なくなり気が付くとその場にいるのは3人だけだった。


風は冷たく、撫でる頬から体に寒気が走る。


そんな中、ひと際強い一陣の風が吹いた。


「――え?」


「――ふぇ?」


「――ん?」


三人がほぼ同時に声を上げた。


風が通り過ぎるとそこには――――


「貴方が相沢祐一さんですか?」


見たことの無い少女の姿があった。